まるっとまったりまろやかに

ゲームの感想、考察、実況プレイ動画のこと。日記も。

2月1週目辺りの日記のつもりだった

【第24話】逆転裁判2 初見実況【のんびり】 - ニコニコ動画


彼女がこめかみに弾丸を撃ち込んだ理由を、ずっと考えている。

あの弾丸に憎しみは込められていたのか。答えは出ない。

「殺したかったらとっくに殺している」。彼女はこう証言した。

彼女は一度リセットボタンを押した身だ。多分我々よりもずっと、今の彼女は安寧を求めていただろう。妹の死を犠牲に変えてまで、彼女は生まれ変わったのだから。

彼女の安寧のためには、霧崎を殺す必要がどこにもない。拳を振るわれぬ暴力に苦しんでいた過去は終わった。もう葉中実々と霧崎の関係は終わったのだ。

もしも殺したかったとしても、殺す必要性がない。しかし、殺す理由ができた。彼女の穏やかな日々が脅かされるとなれば、理由が生まれる。

「殺したかったらとっくに殺している」。そう、彼女はこう証言した。

葉中のどかとしては、復讐心からの殺害以外に動機がない。事件が起こるまでに殺していないのだから復讐心がない。だから殺していない。という筋の話を証言していた。

しかしこの発言だけでは、葉中実々が霧崎を憎んでいたかどうかを結論付けられられない。彼女は復讐心があったとしても、自分を守るためならば殺せないのだから。

私は、どういった方向から考えても、葉中実々の真意を図ることは出来なかった。実々が霧崎に言及したのは一言だけ。「コケにしてくれた」。

これだけでは殺意に変わるほどの憎しみを持っていたかまでは分からない。本当に彼女は最後の最後まで自分を出そうとしなかった。

…もしも私が同じ立場なら、憎しみから霧崎を撃つことはしない。

彼女と霧崎の関係は終わっている。霧崎の存在そのものが自分の過去に繋がっているのだから、終わらせておく必要がある。

男の体に刃を突き立て、綾里真宵を葛籠の中に入れている最中、銃声。振り向くと息も絶え絶えの霧崎が銃を構えている。銃声が対面の間の外にも聞こえた。

妹を犠牲にしても、自分を捨てても、ナイフを刺しても断ち切れない過去。過去がまた自分を追いかけてくる。その恐怖から、引き金を引く。

今度こそ本当に、確実に過去を断ち切るために。私ならそう思って殺す。

 

”葉中実々”は「アタシは殺されたのよ、アイツに。だから復讐してやった。当然でしょ、のどか」と語ったそうだ。

”葉中のどか”は何故こんな証言をしたのか?それは”葉中実々”に動機を持たせるためと考えられる。一番わかり易い動機。これで自分の動機を眩ませられる。

”葉中のどか”は他にも「姉を説得したら分かってくれた」「一緒に連れて行った」と証言している。

これも全て自分のためである。キミ子が綾里真宵に除霊の術を施したという証言の辻褄合わせだ。本当によく出来たウソだった。

「お姉さんに会えて、懐かしくて嬉しかった」。これは互いに警戒心が無かったことを示すための証言なのだと思っている。しかしこれだけは、綾里キミ子のミスだ。

例え血みどろで無かったとしても、死んだ姉に会って動揺しないなんておかしい。超心理学を研究している人間は何度も死んだ人間に会っていたとでも?

この発言には、霊媒師である綾里キミ子の性質が含まれてしまっている。超心理学の学生よりもずっと、霊と親しい存在である綾里家の人間が用意したからこそ、生まれてしまう証言なのだ。

 

私は最後まで葉中実々の真意を探ることが出来なかった。そういえば彼女は事件が起こるより前からオカルトが大嫌いなのだそうだ。

オカルトや霊媒というのは、結局の所「過去を探るもの」でしかないと思う。こういうことが起こったのは○○のせいだと吟味することは出来ても、未来までは掴めない。

彼女は過去を捨てた身である。ならば過去を探るオカルトや霊媒なんてものは、はた迷惑な存在だと思ってしまっても仕方がないのかもしれない。 

……もしオカルトや霊媒を信じるならば、葉中のどかの霊魂の存在を信じることになってしまう。自分が殺し面の皮を剥いだ妹の霊魂を、だ。

では彼女に罪の意識はあったのだろうか。そうだ。罪の意識だ。仕方なく妹として生きる選択をしたにしろ、意識だけは変えられない。

毎朝鏡を覗くと、妹の顔が映るのだ。その奥には交通事故の様子が、更にその奥には霧崎医院が、患者が、ミスをしてしまった自分が映し出されてしまう。

”自分”の顔を見るだけで自分の過去と向き合うことに繋がってしまうではないか。そんな毎日を、平穏な日々とは言えない。

世の全ての人間が灰根のような精神を持っているとは思わない。だが、どうやっても自分は捨てられないんだ。それなのに彼女は、霧崎を殺すことで平穏を保てると思っていた。

……葉中のどかとして生きようと決意した時点で、彼女の心は壊れてしまったのかもしれない。罪の意識も感じられないほどに。

仮にそうならば、あの証言台に立っていた人間は、本当は誰なのだろうか。葉中のどかではないし、かつての葉中実々でもない。

本当は、誰なのだろうか。

 

霧崎医院で苦しんだ女性がいた。

苦しんだ女性の心の歪みが、霧崎医院や様々な人間を苦しめる結果となってしまった。しかし元々彼女は誰かを苦しめてたのか。因果によるものか。そんな事実はどこにもない。

ただただ生きていただけで、被害を被った。心を黒く染められてしまったがために、裁かれる側に立つことになってしまった。

彼女の道は誰が決めたのだろう。道はまだ続いているのだろうか。過去を断ち切って、なお前を向いて歩いていけるのだろうか。

つぐないきれない罪を被ってしまった彼女には、断頭台への道以外に、何か残されているのだろうか。