まるっとまったりまろやかに

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6月2週目辺りの日記のつもりだった

【第44話】逆転裁判2 初見実況【のんびり】 - ニコニコ動画

 

立見リカは、死んだら星になることを信じていた。
木下大作は、リカは弟が星になったと信じている、と言っていた。
しかし木下一平は、生きている。

彼女でも、目の前で噛まれた男の生死は分かるだろう。生きている一平のことを星になったと認識するのは矛盾している。

団長や他の皆が、一平が死んだと伝えるということも考えにくい。

もしかしたら。事故が起こった後、団長はリカにこう言ったのではないだろうか。「バットにはしばらく会えないんだよ」と。

だから彼女は「しばらく会えない、つまりそれはレオンと一緒にお星さまになったということだ」と考えた。

そんな彼女の「お星さまになった」という言葉を聞いた大作は、死んだと言われたように思った…のではないだろうか。

木下大作と立見リカ、それぞれの「星になる」ということの認識の違いも、この事件に関わっていたのではないだろうか。

分からない。これ以上触れるべき話題ではないし、いくら考えても答えの出ない問題だ。

それでも考えてしまう。

 

木下大作と一平は、病院で治療していた。彼らの医療費は一体どこから捻出されていたのだろう。

当然彼らが働くことは出来ない。警察に届け出ていないのだから保険も保障も降りるわけがない。

となると団長が払っていたことになる。団長の収入は勿論、サーカスの興行だ。

ならば、猛獣使いである立見リカの演技によって得た興行収入で、彼らは治療を受けていたとも言えるのではないか。

勿論、彼女だけが働いているわけではない。サーカスに関わる全ての人間によって、彼らは生かされている。

しかし彼の思う「皆」に彼女を加えざるを得ない以上、彼女の無邪気な笑顔で彼らは生かされているという事実は変わらない。

その上毎日食事の世話をされ、片付けや身の回りの世話をされている。自分ひとりではそれすらも出来ないからだ。

……彼らは、いや彼は立見リカが引き起こした事故によって人生を狂わされた。しかし狂った後の人生を補填してくれていたのも、立見リカなのだ。 

それが木下大作にとってどれほど屈辱的だっただろうか。生き抜くための力を削がれ、身動き取れぬ自分の世話をされて。

窓の外をぼうっと見ている彼は、檻の中の猛獣と変わらないではないか。

 

木下大作は立見リカを殺した後、どうするつもりだったのだろう。

上から物を落として殺す。彼が実際に考えたことはこれだけだ。マックスに罪を着せることが出来たのも、目撃者がいたことも全て偶然である。

しかし彼が実際に行ったことはもう一つある。証拠の回収だ。ギリギリとロープを引っ張り上げて凶器を手元に手繰り寄せた。

当然彼は窓の外を覗けないのだから、団長を殺したことに気付けない。だがそれでも証拠を回収したのだ。

それはつまり、保身による隠蔽工作ではないのか。

それ以外にあのタイミングで証拠を回収する必要性が無いのではないか。

立見リカが亡くなったら団長はひどく悲しむだろう。サーカスも立ち行かなくなる。興行が無くなれば、自分も弟も生きてはいけない。

そもそも彼の弟は、立見リカのことが好きだったのだ。目覚めた後の世界にはその女性がいなくなっていて、その原因は自分の兄にある。果たしてその事実を受け入れられるだろうか。

木下大作の行動は矛盾しているのだ。

自分の生きる意味にもなっている「家族への献身」を考えると、立見リカを殺してはいけない。殺すということはつまり、生きる意味を捨てるということだ。

だのに彼は”立見リカを殺した後”に証拠を回収した。我々が聞いていた「生きる意味」を自ら捨てておいて、なお生きようとしていたのだ。

木下大作は立見リカを殺した後、どうするつもりだったのだろうか。死体の移動も出来ず、三階から逃げることも出来ない。なのに証拠だけは回収した。

私は、どうするつもりもなかったのだろう、と考えている。殺したかったから殺したのだ。ただそれだけ。

あの殺害方法は「自分でも立見リカを確実に殺せる方法」だ。その先へのアプローチなどは無い。

自分の計画を実行し、冷静になってから証拠を回収した。怖くなったからだ。

両親に捨てられた。弟が眠りについた。そして今度こそ家族が誰一人いなくなるかもしれない。だって俺は、団長の子供を殺してしまったのだから。

その恐怖から、咄嗟に証拠を回収した。私はそう思うのだ。

もし同じ状況に置かれた時、私ならこう思うだろうから。「もうこれ以上失うのは嫌だ」と。

……もしかしたら彼は、弟のためではなく自分のために、マックスに罪を着せようとしたのではないだろうか。とさえ思ってしまう。

「最初は自殺を考えました。」「次に自首をしようかと。」彼女を殺してからもそうするつもりだったのだろうか。

罪を告白した時に彼は泣いていた。しかし果たして彼は立見リカを殺せていた後も、同じ顔で泣いていたのだろうか。

 

審理中、私は「彼だって本当は事実を明らかにしたいはずだ」と思っていた。

しかしそれは大きく外れた。理由はどうであれ、彼は最後まで隠し通そうとした。

あの証言台に立ち弁護士側、そして検事側からも真相を追求されてもなお、諦めずに逃げおおせるつもりでいた。

思えば私の予想は、彼に初めて会った時から外れていたのかもしれない。彼はサーカスの仲間達の、別の一面を話してくれた。私が思いもしなかったことを次々と。

この時私は「ひょっとして彼はすごい人なのかもしれない」と思っていたのだ。

しかし今考えるとそうではなかったのだな。私が知らないことを伝えただけに過ぎない、ただそれだけのことだった。

事実彼は、狩魔冥の本質を見抜くことは出来なかったのだから。

彼は普通の人間だった。普通の人間が、怒りに任せて人を殺そうとし、保身に走った。

それが誰かのためだろうと関係ない。彼は自分の育ての親が死んだことに向き合わず、逃げたのだ。

そしてまた、憎かった女はニコニコと笑っている。”自分の家族”が死んだことを認識出来ずに笑っている。

自分が殺したいほど憎んだ「死と向き合わない」という行為を自らする羽目になり、しかも現状は変わらなかった。こんな世界を地獄と呼ばずになんと呼ぶのか。

罪を認めることで、彼女だけは変えられた。もしも彼が罪を償った後にサーカスに戻って来られたなら、リカは謝罪するだろう。彼の憎んでいた彼女ではないだろう。

耐えられるだろうか。

殺したいほど憎かった女に謝罪され、皆から暖かく迎えられ、弟の目覚めを待つ。そんな世界に、罪の意識に。

罪を償えば、何もかもリセットされるわけではない。そんなことは彼が一番良く分かっているだろう。

 

情状酌量の余地などない。同情してはいけないんだ。せめて親を殺した罪くらいは、彼にしっかりと背負わせてやってくれないか。

彼の体で支えられるのは、もうそれくらいしか無いのだから。