wander around holding a soft oval

日記を書いてます。人からはエッセイだとも言われます。

通勤途中のカギ

 通勤のために、いつもの道をとことこ歩いていたら、塀の上にカギが置いてあった。自転車のカギだったかな。ちらっと見たが、仕事があるので通り過ぎた。

 職場に着くまでの残り10分、カギのことを考えていた。

 カギってのはそりゃもう貴重品だよ。これがなければ家にも入れないし、自転車にも乗れないんだもん。宝石もスマホも貴重品だが、それが入ったロッカーを開けられないんじゃ意味がないし。ポケモンの主人公が拾ったら、間違いなく「たいせつなもの」のカテゴリに保存される。

 なのにあのカギは、警察に届けられたわけではなく、塀の上に置いてあった。

 カギをあそこに置いた人は、どんな気持ちだったんだろうか。私と同じように通勤途中で見つけたけれど、自分は急いでるから交番までは届けられない、しかしカギは大切なものだ、と思ってここに置いたのだろうか?それとも、もし交番に届けたとしても、探している人が交番に行かずこの道ばかり探したら見つからないから大変だ、と思ったのだろうか?

 鍵が塀の上に置かれた理由は、よく分からない。しかしこの落とし物は、なんらかの善意によってあそこに拾い上げられたはずだ。小さな親切心だよなきっと。それを通勤途中で感じられて、ちょっと嬉しかった。

 小さな親切大きなお世話、という諺があるが、これには当てはまらないだろう。